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鳥取大学医学部 地域医療学講座
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「鳥取-江府study」 について 2011

私たちは、平成17年より鳥取県日野郡江府町にて地域住民の動脈硬化性疾患抑制のために、大学・行政・診療所の連携のもとで糖代謝異常者を早期に発見、生活指導介入する取り組み(鳥取-江府study)を開始しました(平成22年より地域医療学講座も参加)。この背景には、ますます増加の一途をたどっている糖尿病、肥満、高脂血症をはじめとした生活習慣病に対して、地域の大学医学部としての役割を果たす要請があります。このような大学と行政が連携した予防研究活動は全国的にも少数派ですが、地域に役立つ知見を提示していくことは、鳥取大学のように地方大学医学部の役割としてきわめて重要なものと考えます。

 鳥取県日野郡江府町は脳血管疾患死亡率が人口10万人あたり300人を超え、全国平均の約3倍である、脳卒中の多い地域です。また、脳血管疾患による寝たきりも多く、鳥取県でも有数の医療費が高額な地域です。私たちは住民基本検診結果に基づき、簡便な指標を用い、糖代謝異常者を早期発見し、糖代謝異常者に対して生活習慣への早期介入を開始しました。その結果、空腹時血糖と中性脂肪、高血圧、BMI、家族歴などを組み合わせる事により、多くの糖代謝異常者を早期に発見できました。空腹時血糖は100mg/dl以上110mg/dl未満で約2/3と高率に糖代謝異常者が検出され、住民基本検診基準の空腹時血糖110mg/dl以上ではあまりに見逃しが多い事に驚かされました。特に、高血圧治療中のみのグループで、肥満や高中性脂肪血症がなくても約4割と高率に耐糖能異常者が発見され、脳卒中予備群として積極的に介入していく必要性があると考えられました。慈恵医大のグループなどでは日本人は空腹時血糖95mg/dl以上でのOGTTを勧めていますが、その妥当性が確認されました。

 その後、この取り組みで発見された糖代謝異常者に対して江尾診療所の武地所長の協力のもと、大学医師が、福祉保健課の保健師、栄養士などと連携して患者教育を行い、生活習慣への介入を行いました。福祉保健課が隣接する診療所という好条件のもと、外来での細やかな個別指導が実践でき、教育入院や薬剤を駆使しなくとも、生活習慣改善によって代謝指標が改善する方が多く見受けられました。また、この地域は山間部のために、冬期の積雪のため運動不足になりがちであり、腰痛症や膝関節症など整形外科的疾患のために運動が十分にできない点が問題でした。これに対して、名古屋市立大学の竹島教授の協力のもと、ゴムバンドやバランス運動などを用いて室内でも可能な「ウエルビクス」運動を取り入れました。この結果、冬期の糖代謝・脂質代謝指標、肥満の悪化が防げるだけではなく、腰痛、膝関節痛などの症状が緩和するという効果も得られ、たいへん好評でした。

 以上の結果は、日本糖尿病学会・米国糖尿病学会にて継続して報告し、全国的にも注目される成果となっています。また、鳥取県という地域の要請に応じた特徴ある医学部研究活動として鳥取大学地域貢献支援事業に4年連続で採択されています。

「鳥取-江府study」に関する報告

第68回米国糖尿病学会(2005, Washington DC, USA)
An Economical and Effective Way To Detect Early Stage of Impaired Glucose Tolerance and Diabetes in Resident of Rural Area in Japanese Population (Tottori-Kofu Study)

第49回日本糖尿病学会2006
鳥取-江府study;早期耐糖能異常者発見の取り組み
鳥取‐江府 study第2報:地域住民の耐糖能障害発見のためのウエスト径の有用性
鳥取‐江府 study第3報:生活習慣病予防外来システムを用いた糖尿病予備群への介入について

第50回日本糖尿病学会2007
鳥取-江府スタデイ第4報:Well-rounded Exercise(ウエルビクス運動)を用いたIGT群と地域集団への運動導入と効果

第51回日本糖尿病学会2008
鳥取‐江府スタデイ第5報:IGT群の生活習慣への介入効果についての検討
ITを用いた食事指導支援ツール「メタボリねっと」の開発:鳥取江府スタデイ第6報

第52回日本糖尿病学会2009
鳥取-江府スタデイ第7報:ITを用いた生活指導支援ツール「メタボリねっとver.2」の開発

第53回日本糖尿病学会2010
鳥取-江府study第8報:行政・医療・大学の3者連携による耐糖能異常者の早期発見と生活習慣介入
鳥取-江府study第9報:耐糖能異常への生活指導介入の有用性について
鳥取-江府study第10報:糖負荷試験における尿中ミオイノシトール測定の有用性についての検討

The 46th EASD Annual Meeting, Stockholm, Sep, 2010
Urinary myo-inositol is a useful and cost-effective marker to detect glucose intolerance: a community-based “Tottori-Kofu study”

「鳥取江府study」に関する予算取得

平成18年度鳥取大学地域貢献支援事業
「健康で豊かな福祉社会に:動脈硬化・介護予防のための運動教室の取り組み」

平成18年度 高等教育機関「知の財産」活用推進事業
 「商工会議所と地域保健資源を連携させた職場での生活習慣病予防対策モデルの構築」
第39回医学研究助成(三井生命厚生事業団)
 「総合的全身運動プログラム(ウエルビクス)を用いたメタボリック症候群管理モデルの構築-地域保健資源の有効活用-」

平成19年度鳥取大学地域貢献支援事業
「地域へのウエルビクス運動教室の導入と運動支援リーダー育成の試み」

平成20年度鳥取大学地域貢献支援事業
 「タッチパネルを用いたライフコーダー記録の地域運動教室への導入と効果の検討」

平成20年度鳥取大学地域貢献支援事業
「脳卒中の発生抑制のための生活習慣調査と分析 -鳥取-江府study- 」

平成21年度鳥取大学地域貢献支援事業
 「脳卒中イベントの背景要因の分析と介入効果の検証:鳥取-江府study」

平成23年度鳥取大学地域貢献支援事業
「ライフコーダーを用いた中山間地住民の運動量の季節変動調査」
「江府町における高血圧管理現況調査と家庭血圧記録運用上の問題点」


 さらに、「鳥取江府study」からは、予想もしなかった副産物が生まれています。

江府町内の働き盛りのメタボリックの人達を、なんとか生活指導システムに乗せようという意図から生まれた「メタボリねっと」は、インターネットを通じて栄養指導や運動指導を行うプログラムです。現在、メタボ対策技術として注目され、大学病院医療情報部・ITメーカーと共同で「生活指導支援ツール」としての商品化をめざしています。また、平成20年度から始まった特定健診保健指導において「成果の出せる生活指導技術」がいよいよ必要になっています。私たちの江府町での実績やノウハウをもとに、地元の民間企業と協力して、鳥取大学医学部発ベンチャー企業「aVisCo(アヴィスコ)」が設立されました。今年度からは鳥取県・島根県内で自治体・事業主などの顧客を獲得し、実際の指導がスタートしています。さらに、江府町での成果を他の地域へ応用するため、「日野川流域生活習慣病研究会」を設立し、近郊の日野町・日南町・南部町を含めた鳥取県西部地域全体の取組みとして発展させる動きも始まっています。

 このように、医学部が小さな自治体である江府町と連携することで、今までに想像もできなかった新たな研究活動や商品開発、ベンチャー企業の設立などの動きが生まれています。

現在までに、社会医学講座環境予防医学分野の岸本教授・尾崎准教授の協力のもと、統計学的な検討も行い、以下の論文をpublish
することができました。
1)Ohkura T, Taniguchi S-I, Inoue K, Yamamoto N, Matsuzawa K, Fujioka Y, Sumi K, Izawa S, Takechi M*, Osaki Y† and Shigemasa C
Screening Criteria of Diabetes Mellitus and Impaired Glucose Tolerance of the Japanese Population in a Rural Area of Japan: The Tottori-Kofu Study
Yonago Acta medica 2009;52:105–114
2)Ohkura T, Taniguchi S, Osaki Y, Yamamoto N, Sumi K, Fujioka Y, Matsuzawa K, Izawa S, Shiochi H, Kinoshita H, Inoue K, Takechi M, Kishimoto T, Shigemasa C.
Lower fasting plasma glucose criteria and high triglycerides are effective for screening diabetes mellitus in the rural Japanese population: the Tottori-Kofu Study.
Rural Remote Health. 2011 Jul-Sep;11(3):1697. Epub 2011 Aug 26

地方の医師不足、地方大学医学部の危機的な状況が叫ばれており、内分泌代謝グループも人手不足で厳しい状況ではありますが、この臨床疫学研究が末永く継続、発展し、鳥取大学医学部としての一つの研究の方向性を提示できればと考えております。


 なお、「鳥取-江府study」「メタボリねっと」に関連した新聞記事とaVisCoのパンフレットを添付しておきました。ご参照ください。

文責
谷口晋一
新聞記事